―「明記されているルール」と「実務上の運用」の話―
「傷病手当金って、会社を辞めたら終わりなんですよね?」
外来でとてもよく聞かれる質問です。
実はこの答え、半分は法律に明記されていて、半分は運用の話になります。
今日はその境目を、できるだけ分かりやすく整理します。
① 退職後も傷病手当金が出る条件は「明記」されています
結論から言うと、
被保険者期間が継続して1年以上ある場合、
条件を満たせば退職後も傷病手当金は継続支給されます。
これは、
健康保険法にきちんと書かれているルールです。
退職後も支給される主な条件
次の3つをすべて満たす必要があります。
- 健康保険の被保険者期間が継続して1年以上
- 退職日時点ですでに傷病手当金の支給要件を満たしている
(=労務不能で、待期完成後) - 退職後も同一の傷病で労務不能状態が続いている
つまり、
「在職中にちゃんと傷病手当金の対象になっていて、
1年以上保険に入っていれば、
退職しても“その続き”は守られます」
という制度設計です。
② 「頻回受診」「月1回だと疑義照会」?
精神科外来ではたまに保険者側から電話が来ることがあると思います。
結論:法律や条文には明記されていません。
- 月1回以上受診しなければならない
- 投薬がないとダメ
こうしたルールは、条文上は存在しません。
③ では、なぜ疑義照会が来ることがあるのか?
理由はシンプルで、
傷病手当金は
「療養のため労務に服することができない場合」
に支給される制度だからです。
保険者(協会けんぽ・健保組合)は、
- 本当に労務不能なのか
- 医師が継続的に病状を把握しているか
- 治療内容と診断書の内容が整合しているか
をチェックしています。
④ 実務上、疑義照会が来やすいケース
● 月1回のみの受診
月1回=即アウト、ではありません。
ただし、
- 傷病手当の医師の記載欄では「労務不能が続いている」
- なんか治療介入が最小限
この場合、
「本当に休業が必要?」
と確認が入ることがあります。
● 未投薬(特に精神科に多い!!)
これもルール違反ではありません。
- 休養中心
- 環境調整
- 精神療法主体
という治療方針は、精神科では珍しくありません、休養が決まり安心して初日から投薬を必要としない患者さんもいます。
ただし、
- なぜ投薬していないのか
- 治療としてどういう位置づけなのか
が書類上で読み取れないと、
疑義照会につながりやすくなります。
⑤ これは「暗黙のルール」?
正確には、
- ❌ 暗黙のルール
- ⭕ 制度趣旨に合っているかを確認するための運用基準
法律は「大枠」だけを定め、
実務では「合理性」が見られています。
⑥ 疑義照会を防ぐための実務的ポイント
患者さん側・医師側ともに重要なのは、
「労務不能」と「治療内容」がつながって見えること
たとえば書類上で、
- 症状は持続しているが急性期は過ぎている
- 回復過程にあり、休養を主とした治療を継続中
- 投薬は副作用や既往を考慮し行っていない
といった説明を追加すれば、伝わりやすいと思います。
まとめ
- 被保険者期間1年以上で退職後も継続給付
→ 法律に明記されている - 受診頻度・投薬の有無
→ 法律には書かれていないが、運用上チェックされる - 大切なのは
「本当に療養のために働けない状態か」が説明できること
制度を正しく知ることで、
不安や誤解はかなり減らせます。