― 我慢が続くと胃や体に症状が出る人の漢方 ―
四逆散は『傷寒論』を出典とする漢方薬で、柴胡剤の中でも最もシンプルで切れ味の良い処方のひとつです。
精神的ストレスをうまく外に出せず、心と体の緊張が続いた結果、胃痛・腹部膨満・動悸・頻尿などの身体症状として現れている場合に力を発揮します。
四逆散が合いやすいタイプ
- 神経質で気を遣いすぎる
- イライラや抑うつ感があるが、文句を言えない
- 我慢が続くと胃が痛くなる
- お腹が張る、ガスが溜まりやすい
- 緊張すると頻尿や手の発汗が出る
身体所見として腹直筋の緊張や腹部膨満がある場合は、特に適応を考えます。
薬理的な背景
動物実験では、四逆散の経口投与により
- 胃粘膜障害の抑制
- 虚血再灌流による胃障害の軽減
- 肝・胆道障害モデルにおける肝機能マーカーの上昇抑制
などが報告されています。
抗潰瘍作用に加え、活性酸素除去作用やプロトンポンプ活性阻害作用が示唆されており、ストレスが関与する消化器症状への効果を裏付けています。
処方の実際
四逆散は柴胡(サイコ)を主薬とする柴胡剤で、柴胡加竜骨牡蛎湯や加味逍遙散と同じ系統に分類されます。
柴胡と枳実による抗ストレス作用に、芍薬と甘草の筋緊張緩和作用が加わることで、心因性の痛みや不快感を和らげます。
「抑うつやイライラがあるのに発散できない」「ストレスが胃や腹部症状として出る」タイプに適しており、近年では心因性疼痛やパニック症状に伴う身体症状への応用も期待されています。
用量の目安
成人では1日7.5gを2〜3回に分け、食前または食間に内服します。
高齢者では減量を考慮し、妊娠中や妊娠の可能性がある場合は、治療上の有益性が危険性を上回る場合にのみ使用します。
実際の処方エピソード
① 介護ストレスによる心窩部痛の例
62歳女性。遠方で入院中の母親の看病が続き、心窩部痛と腹部膨満、頻尿が出現。内科検査では異常なし。「病人の前では元気に振る舞わないといけない」という心理的負荷が強く、四逆散を処方。1日2回の内服で症状は消失し一旦終了。その後再燃時に再開し、現在は5gで安定しています。
② パニック障害に伴う胃部不快と動悸
30歳女性。パニック障害でSSRI内服中。混雑時に「胃を掴まれるような苦しさ」から動悸が出現し、抗不安薬を頓用していました。外出前に四逆散2.5gを頓服としたところ、発作が「受け流せる」程度となり、抗不安薬は不要となりました。
処方の際の留意点
証を考慮せずに漫然と使用することは避けます。他の漢方薬と併用する場合は、生薬の重複に注意が必要です。
本剤は甘草を含むため、低カリウム血症や偽アルドステロン症、ミオパシーに注意します。
服用のしかたと留意点
四逆散は構成生薬が少なく、柴胡剤の中でも即効性が期待できる処方です。処方後2〜3週で効果判定を行います。
症状によっては頓服使用でも効果が得られるため、ライフスタイルに合わせた使い方が可能です。
こころの治療薬ハンドブック 2016年版より引用 一部改変しています